新築注文住宅を建てる時、多くの方が迷うのが「平屋と二階建て、どっちがいい?」という点です。コスパがよく、どんな土地でも希望の家を建てやすい二階建ては安定した施工件数を誇りますが、近年は平屋の家も人気が高まっています。平屋には、フラットで暮らしやすい、コンパクトな暮らしが実現する、おしゃれといったイメージがあるようです。
この記事ではこれから家を建てる方のために、「土地条件」「メリット・デメリット」「家族構成」「資金」という4つの視点から、平屋と二階建てを比較解説します。気になるポイントから読んでいただいても構いません。平屋と二階建てのどちらがご自身に合うか、決めるヒントにしてください。
土地条件から考える「平屋と二階建て、どっち?」
家づくりでまず考えなければならない「土地」の面から、平屋と二階建てを比較します。敷地面積と建ぺい率、土地の形状、周辺環境などについて詳しく見ていきましょう。
敷地面積と建ぺい率・容積率
土地に建てられる家の大きさは、「敷地面積」と「建ぺい率」によって決まります。
【用語解説】
- 建ぺい率:建てられる家の最大面積(建物を上から見た面積)を示した指標
- 容積率:建てられる建物の延べ床面積(2階以上部分も含んだ面積)を示した指標
建ぺい率も容積率も、地域の都市計画で定められています。敷地が広くても建ぺい率が小さな土地なら大きな家は建てられませんし、狭い敷地でも二階建てにすれば延べ床面積は確保できます。
たとえば「100平方メートル(30.25坪)の家を建てたい」場合、平屋と二階建てそれぞれで必要な敷地面積は以下のようになります。
建ぺい率 | 平屋に必要な敷地面積 | 二階建てに必要な敷地面積 |
40% | 250平方メートル (75.62坪) | 125平方メートル (37.8坪) |
50% | 200平方メートル (60.5坪) | 100平方メートル (30.25坪) |
60% | 166平方メートル (50.2坪) | 83平方メートル (25.1坪) |
同じ建築面積の家を建てようとした場合、平屋の方が広い土地が必要です。二階建ては垂直方向にも間取りを確保できるため、平屋よりも小さな土地でも建築できます。
どれくらいの大きさの家を建てたいかという希望と、土地の面積や建ぺい率・容積率を比較すると、平屋と二階建てのどちらが良いかが見えてきます。
土地の形状
土地の形状によっても、平屋と二階建てのどちらが良いかは変わります。土地の形が正方形や長方形ではない変形地の場合は、設計に工夫が必要なことが多く、希望通りの間取りが実現できるか難しくなるためです。
水回りや収納、ガレージを1階部分に確保した結果、居室に十分な広さが確保できない場合は、二階建てにした方が住みやすい家になるでしょう。土地の都合で壁を斜めにせざるを得ない場合は、平屋にしてリビングの全面開口にしても良いかもしれません。
土地の形をどのように生かすかは、設計する建築士の腕次第です。変形地への建築を検討している場合は、平屋と二階建てと、それぞれのケースで相談してみるのがおすすめです。
周辺環境
平屋と二階建てのどちらが良いかは、周辺環境によっても異なります。
平屋は外からの視線が入りやすく、プライバシーの確保に課題があります。人通りの多い道路に面していたり、隣家との距離が近すぎたりする場合は、二階建ての方が安心できるかもしれません。また高い建物に囲まれた土地に平屋を建てると、風通しや日当たりが悪くなる恐れもあります。
一方、二階建てでは「近隣にある太陽光パネルの向き」に注意しましょう。太陽光パネルの反射光が、トラブルの種になることが増えているからです。建物の二階部分に反射光が差し込むと、室温が上がりすぎる・熱中症になるといった危険があります。
メリット・デメリットから考える「平屋と二階建て、どっち?」
平屋と二階建てのどちらが良いか迷ったら、それぞれのメリット・デメリットを客観的に比較してもよいでしょう。
平屋と二階建てのメリット・デメリットをまとめましたので、参考にしてみてください。
平屋と二階建て、それぞれのメリット
平屋と二階建てのメリットを比較します。
平屋のメリット | 二階建てのメリット |
●動線がシンプルで暮らしやすい ●バリアフリーにしやすい ●家族のコミュニケーションがとりやすい ●構造が安定しやすい ●メンテナンスがしやすい | ●狭い土地でも希望の間取りや広さが確保しやすい ●プライバシーを確保しやすい ●コスパの良い家が建てやすい ●固定資産税が節約しやすい ●災害時に垂直避難が可能 |
平屋のメリットを解説
平屋は「ワンフロアで生活が完結する」点が、最大のメリットです。家事や生活動線がシンプルで暮らしやすく、バリアフリーが必要になったときも対応しやすいでしょう。また家全体が見渡せしやすいので、家族の気配が常に感じられ、コミュニケーションが取りやすいというメリットもあります。
「二階部分がない」という特徴は、住宅構造の安定につながります。屋根の修繕やメンテナンスの際も足場を組む必要がないため、メンテナンスにかかる費用も抑えられる点も見逃せません。
二階建てのメリットを解説
二階建て住宅は狭い土地でも広さや部屋数が確保しやすい点がメリットです。独立した居室を作りやすいのでプライバシーも確保できます。また同じ延べ床面積の家なら、平屋より建築費を抑えられ、固定資産税も平屋より低い傾向にあります。
また万一、浸水などの被害があっても、2階部分に非難する「垂直避難」が可能な点も安心材料といえます。
平屋と二階建て、それぞれのデメリット
続いて平屋と二階建て、それぞれのデメリットを比較します。
平屋のデメリット | 二階建てのデメリット |
●広さや部屋数を確保するには広い土地が必要 ●日当たりや風通しが悪くなりやすい ●プライベートな空間を確保しにくい ●防犯、プライバシー面が課題になりやすい | ●生活動線が長くなる ●ライフスタイルの変化により二階部分が物置になりやすい ●バリアフリーに対応しにくい ●家族のコミュニケーションがとりにくい |
平屋のメリットを解説
平屋は2階部分がないため、部屋数や広さに応じて必要な土地面積も広くなります。土地そのものにも費用がかかる点はデメリットでしょう。また周辺環境や間取りによっては、日当たりや風通しが悪い部屋も出てきます。特に家の中心部は暗くなりがちなので、開口部を多く設け、採光や空気の通り道を確保することが大切です。
平屋はプライベート・プライバシーの面でも課題が出やすいと言われています。特に家の全ての窓が1階部分にあるため、外部から侵入されやすい点は注意しておきましょう。
二階建てのメリットを解説
二階建てのデメリットは、2階があるために生活動線が長くなる点です。また子どもの独立などライフスタイルが変化すると、2階部分がデッドスペースになりやすいこともデメリットでしょう。シニアの暮らしでは、2階に上がりにくい、バリアフリーにしにくいという点も注意が必要です。
二階建ては、平屋に比べて居室の独立性が高まります。プライベートな空間を確保しやすい反面、家族同士のコミュニケーションがとりにくくなる懸念も考えられます。
家族構成から考える「平屋と二階建て、どっち?」
家族構成やライフスタイルの面から「平屋と二階建て、どっちがいい?」と考えることもできます。子育て世代、二世帯住宅、夫婦のみ・シニア世帯という3つのパターンに分けて、平屋と二階建てを比較してみましょう。
子育て世代の場合
平屋での子育ては、思った以上に子どもに目が届きます。家全体の空間につながりをつくりやすく、子どもが家のどこにいても気配を感じられるため、幼時から思春期までの安心度も高まるでしょう。フラットな間取りのため、子どもがつまずいて転ぶ心配もありません。
一方、二階建ての子育ては、家族一人ひとりのプライベート確保を重視するご家族におすすめです。独立した子ども部屋や大人の寝室、書斎なども作りやすいため、家族それぞれが「自分だけの空間」を持てる点は魅力的です。
二世帯住宅の場合
二世帯住宅は、一般的には二階建ての方が作りやすいと言われています。1階部分と2階部分で住み分けできるからです。ただ2階の生活音が1階の家族に聞こえやすいため、1階の天井に吸音材を入れる、2階床材の下に遮音材・吸音材を敷き詰めるなど、防音対策を高める工夫が必要です。
また、近年は「平屋の二世帯住宅」も増えています。平屋で二世帯住宅を作る場合は、建てものの左右や前後で住み分けるのが一般的。一部を共用部分にすると、適度な距離感を保ちつつ、共用部分の建築費や光熱費などを抑えられるというメリットもあります。中庭を設けてお互いの気配を感じられるスタイルにするのもおすすめです。
夫婦のみ・シニア世帯の場合
多くの部屋がいらない夫婦のみ、あるいはシニア世帯なら、二階建てより平屋の方が暮らしやすいでしょう。コンパクトな空間で負担少なく生活できます。2階部分がデッドスペースになったり、階段掃除を煩わしく感じたりすることもありません。
敷地面積に余裕があれば、リビングを広くしたり、趣味のスペースを作ったりするのもおすすめです。
資金面から考える「平屋と二階建て、どっち?」
家づくりで最重要ともいえる「資金面」から、平屋と二階建てを比較解説します。どの住宅でも必要な「土地代」「工事費」「税金」「メンテナンス費」に分けて見ていきましょう。
土地代
同じ延べ床面積の家を建てる場合、平屋の方が二階建てより広い土地が必要になります。購入する土地の面積と価格は比例するため、予算とよく照らし合わせて検討しましょう。
また敷地面積は固定資産税にも影響します。長期的にみて、無理なく払える費用に抑えることが大切です。
◎ 参考:鹿児島市内の土地価格相場
2021年の平均坪単価は21.1 万円でした。25坪の土地なら約527万円、30坪なら約630万円かかる計算になります。
工事費
基礎工事や外壁工事に必要な費用は、二階建てより平屋の方がかかります。二階建てなら、基礎工事は1階部分の面積だけ行えばよいのですが、平屋の場合は建築面積全てに基礎工事が必要になるからです。同じように屋根にかかる費用も、平屋のほうが大きくなります。
ただし、二階建ては2階にもトイレを設置したり、バルコニーに高性能の防水加工を施したりすると、やはり費用が掛かります。
平屋と二階建てとで迷ったら、工務店に希望を伝え、両方の見積もりを見せてもらうと良いでしょう。
税金
同じ床面積の住宅の場合、二階建てより平屋のほうが固定資産税が高くなります。二階建てより平屋のほうが、広い土地が必要なためです。また平屋の方が屋根や壁をはじめ、住宅全体で二階建てより多くの資材を使います。結果的に資産価値が高く評価され、評価額が上がり、固定資産税も高くなる傾向にあります。
とはいえ、平屋と二階建てで固定資産税が何十万円も違うようなことはありません。差があっても年間数万円程度です。「固定資産税」を不要に恐れず、総合的な視点で冷静に検討しましょう。
メンテナンス費
家に住み続ける限りかかるメンテナンス費は、平屋より二階建てのほうがかかるといわれています。高所の点検や修繕の都度、足場を組む必要があるからです。足場を組むためには、足場の材料費はもちろん、とび職人の人件費もかかります。
また災害などが起きて地域全体で住宅の修繕ニーズが高まると、足場が不足して修繕が進まないことも起こりえます。
足場なしで屋根に上れる平屋は、メンテナンスも安く気軽に頼めます。こまめに手入れした結果、メンテナンスにかかる総費用も抑えられるかもしれません。
平屋と二階建て、どっちが良いか迷ったらプロに相談を
まとめ
平屋と二階建てのどちらで家を建てるべきか4つの視点から解説してきました。
平屋は比較的広い土地が必要で、防犯やプライバシー確保に課題があるものの、フラットでコンパクトな暮らしが実現すること、開放的でつながりのある空間が作りやすいことが特徴です。二階建てより資産価値が高くなりやすいため、固定資産税もかかりますが、売却の際も高く売れる可能性があります。
二階建ては狭い土地にも希望通りの部屋数が確保できる点や、部屋ごとの独立性が保たれる点が特徴です。家族のプライバシーを大切にしたい方に向いているでしょう。ただしメンテナンス費用がかさみやすい点や、バリアフリーに対応しにくい点は注意しておいたほうがよさそうです。
平屋にも二階建てにも、それぞれに良さがあります。お目当ての土地条件や予算、理想のライフスタイルを、ぜひ工務店に相談してみてください。見積もりも平屋と二階建てとそれぞれで出してもらい、比較するのもポイントです。